ここが「王道」ではないけれど。

10月のトピックといえば、やはり日本初開催となったラグビーW杯。

スポーツの話題で世間が盛り上がり、歓喜に沸いたのは久しい気がしないでもない。

とりわけ日本ではマイナースポーツと言われるラグビーで国民が熱狂し、認知度が高まり、ファンも増えたという結果は日本ラグビー界にとってはこの上ない成功を収める形となった。

振り返ってみると、予選プールでは世界ランク2位のアイルランドに大金星を上げ、続くサモア戦では4トライを決め、決勝リーグに大きく近づくボーナスポイントを獲得した。予選最後の試合は因縁のスコットランドが相手。

台風19号という未曾有の自然災害の影響を受けた直後に行われた大事な試合だった。スタジアムでおごそかに行われた黙祷と国家斉唱は、我々日本人の日本人らしさがもっとも表れた一幕という印象が強く、映像が鮮明に焼き付いている。

そして始まった試合。スコットランドの猛烈なディフェンスに対して日本代表の執念で突き進む姿は、観客や視聴者の心を打った。倒れながらもパスをつなぎ、前へ前へ、かすかな糸をつかむように、前へ前へ、彼らは前へ進んだ。

進めば進むだけ、歓声や興奮は鳴らした銅鑼の音のようにごうごうと大きくなる。敵陣で攻撃が続けば、自然と「いけ!いけ!」と応援したくなるし、なかなか進まない時間が続いても「もう少し!もうちょっと!」と後押ししたくなる。

そうやって、小さな前進を積み重ねた先にあるトライは得点以上に見ている者たちの心を熱くさせた。

試合後半、スコットランドも意地を見せ、ワントライワンゴールで同点まで漕ぎ着けた。試合終了までは残り20分。この20分はかなり濃密だった。

気が抜けない、手に汗握る、一進一退のシーンの連続。見ているほうがキツくなりそうな衝突の往来、スコットランドのがむしゃらな攻めは威圧感があった。それでもとにかく耐えた日本のディフェンスは天晴れの一言に尽きる。

決勝リーグでは屈強なフィジカルを持つ南アフリカに敗退したものの、大きな壁に全員が立ち向かっていくという、実直な挑戦と姿はやはり素晴らしいもので、非常に良い刺激になったと個人的には思う。

 

というような所感を踏まえて、もう一つ。

 

ここから話は逸れるけれど、ポケモンのアニメシリーズについてちょっと書きたい気持ちが溢れたので、記しておきたい。あえて。

なんだかんだといわれたら、ポケモンのアニメも1997年に始まって実に22年が経過した。

話数はいよいよ1000話を超え、主人公のサトシは相棒のピカチュウとともに、さまざまな人やポケモンたちを通じた冒険を繰り広げてきた。

サトシは原作のストーリーになぞらえて、色々な地方を巡っている。

今作はアローラ地方と呼ばれるいくつかの島からなる世界を旅しており、例のごとくポケモンを捕まえたり、バトルしたり、ポケマンマスターを目指して奮闘していく。前作のXY編と比すと、作画やテイストは変化したものの、物語の基本的な理念はシリーズを通して一貫している。

やはりポケモンのアニメは、主人公サトシとピカチュウの成長が一番の魅力で、まさにそれは王道であり、長らく続いている由縁なのだろうと思う。シリーズ皆勤賞のロケット団も単純な悪者というかお邪魔虫という立ち位置ではなく、あくまで悪役として登場しており、それもまた成長につながる重要なファクターとして効果を発揮している。

アニメでは、シリーズの終盤になるとサトシがリーグ戦に出場する機会がほとんどで、旅の中で出会ったポケモンたちと力を合わせて強敵に立ち向かっていく。

今までのシリーズでは、事実だけ述べるとサトシは勝ち進むけれど、最後は負けてしまうというのがお決まりの構図だった。たくさんバトルをして、たくさん成長しても、どうしても勝てない相手がちゃんといるという、勝負の厳しい世界がちゃんと描かれていた。

そこが良いところで、サトシはみんなが応援する唯一無二の主人公でありつつ、物語の世界においてはただのひとりのポケモントレーナーでしかないことを歴然とした事実として受け止めなくてはいけない。

そのようなビターなテイストも含めて、ポケモンのアニメは成り立っている。

今回も、アローラポケモンリーグが行われた。サトシはシリーズを通じたライバルたちとの激闘を制し、リーグ戦を勝ち進んでいった。

とうとう決勝戦まで勝ち進んだサトシはグラジオと相対し、ルガルガンうしのバトルを以て、ついに優勝という栄光を手にすることができた。このこと自体、過去作では達成し得なかった偉業だったし、その後のエキシビションマッチでは、アローラ地方で長らくサトシが世話になってきたククイ博士とのラストバトルが実現することになった。

そうして始まったバトルは、掛け値無しにポケモンアニメの歴史に名を刻む名勝負となった。

戦闘作画だけでもバトルの凄まじさがよくわかるし、手持ちのメンツを見ても面白い勝負になることは必然だった。

しのぎを削るバトルの終盤、互いに残ったポケモンは一体ずつ。

サトシはピカチュウだった。きっとサトシは最初から最後のポケモンピカチュウと決めていたんだろうと思う。ほかのポケモンにはない特別な愛着があって、ピカチュウとならバトルで勝っても負けても納得ができると思ったのかもしれない。

一方のククイ博士はカプ・コケコと呼ばれる島の守り神だった。カプ・コケコは元々ククイ博士の手持ちにはいなかったが、これまでの試合を見ていたカプ・コケコがサトシとバトルをしたくて、ククイ博士をトレーナーに指名したという形だった。いわゆる乱入というやつなのだけど。

なんにせよ、最後の最後はピカチュウVSカプ・コケコという電気タイプどうしのバトル。

エレキフィールドが拡がる中でのスピーディで激しいバトル。お互い譲らない攻防でバトルは展開し、一呼吸置いたところでカプ・コケコはそれぞれの島の守り神を呼び寄せ、集まった。

すると浴びたものが元気になる(?)効果のあるカプシャワーがスタジアムに降り注いだことで、ククイ博士はサトシにたいして互いにZ技を打つように提案した。全身全霊をかけたZ技で勝負を決めようという、博士の心意気をサトシは快く受け止める。

「いいね、博士!  最高だ!」

このサトシの言葉とともに、二人はZ技を選択。ククイ博士のカプ・コケコは巨大な人型が襲いかかるガーディアン・デ・アローラ。対するサトシのピカチュウといえば、やっぱりおなじみの電気技。の全力技。

「行くぞピカチュウ!  10まんボルトよりもでっかい100まんボルト!  いや、もっもっとでっかいオレたちのゼンリョク!  ピカチュウ!  1000まんボルト!」

サトシの掛け声とともに、彼のトレードマークである帽子をかぶったピカチュウが猛烈な電気をまとって、カプ・コケコに突撃していく──。

激しいバトルの行く末は、もうあえて言わないようにするんだけど、その間、劇中では初代のアニメのエンディング曲「タイプ:ワイルド」がBGMとして流れる。それが熱いのなんの。

まさしく原点回帰にして、サトシがたどり着いた境地を表したかのような演出で、心からスタンディングオベーションをしたい心地で見守ることができた。

 

ほんとうに良かった。いいバトルだった。

拍手。拍手。もう一度拍手をしたところで、最後はラグビーに話を戻しつつ、まとめ。

 

ラグビーという競技では試合終了のことをノーサイドと呼んでいる(現在は主流ではないけれど)。試合が終われば、敵も味方もなく、互いの健闘を称え合うという精神にもとづいた観念で、今回のW杯でも大きく注目されていたポイントの一つだった。もし負けたとしても、相手の良いところはやっぱり褒めるべきだし、そっちの方が自分たちも悪い気はしない。

ポケモンでも主人公のサトシはその感覚を大事に持っている。初代オープニングの「めざせポケモンマスター」の2番の歌詞には、きのうの敵はきょうの友、きょうも友はあしたも友達、という素敵な言葉がある。

これこそまさにノーサイドと呼ぶにふさわしく、これもポケモンの王道のひとつなんだな、と勝手に納得したりした。

ラグビーにしても、強い敵に立ち向かって、かけがえのない勝利をつかむことは、まさに王道で、だからこそ多く人を惹きつける結果になったんだろうと思う。あと、どうでもいいけれど、今回のW杯はメディアの使い方が上手だと感心するばかりだった。

 

そんな感じでとりとめもない内容だけれど、今週末はいよいよ、ラグビーW杯の決勝戦が行われる。世界ランク1位のニュージーランドを破ったイングランドと世界屈指のフィジカルを誇る強豪南アフリカという組み合わせ。勝負の展開は神のみぞ知るが、これもまた歴史を彩る名勝負になるのだろう。

とってもたのしみだ。