それは「鉄道」というコンテンツ。

 

大学生になったあたりから、年に2回3回は東京に行く機会に恵まれるようになった。観光、出張、経由地。目的は多々あれど、大部分において羽田空港から東京モノレールに乗ってJR浜松町に行くルートが当然になっていた。現地での足は鉄道オンリーで、かならず出張の際は浜松町から後楽園を目指すことがゴールとなる。

これまでのルート。山手線内回りで秋葉原まで行き、そこからJR中央・総武線各停で飯田橋東京メトロ丸ノ内線後楽園駅に至る。乗り換えは2回。別段不思議なルートではない。だけどもより東京近郊の鉄道事情に明るい人間であれば、別ルートを提案するかもしれない。たとえば浜松町から山手線内回りで東京、地下鉄メトロ丸ノ内線後楽園駅。こうなると上記の総武線各停の乗り換え1回分が不要となる。

こう書いて自分は実は最短ルートよりも迂回ルートを利用していたのだと気づく。料金にして何十円、時間にして何分かの違いでしかないけれども、客観的事実に基づけばちょっぴり損をしたことになる。この『損』というのは、長らく自分の経験則をアップデートしてこなかった怠惰という面での損を大いに含む。とどのつまり知識の涵養不足に他ならない。

そういった事情もあってか、ふとした拍子に東京近郊の鉄道網について大々的に受容しようと考えた。今まで、とくに鉄道趣味があったわけじゃない。けれど調べているうちに少しずつ紐解いていくと、やはり面白いの方が勝った。

気づけばトイレの壁に東京近郊の路線図をA3サイズで印刷して貼っていた。左側にはJR東日本(東京近郊)の路線図、右側には都営地下鉄東京メトロを重ねた地下鉄の路線図。そこで新たに気づく。自分は路線図が好きなのだと。あの駅構内で見かける首都近辺の複雑で緻密に張り巡らされたグラフィックデザインが非常に好奇心をそそる。

各沿線の色分けが味わい深い。もしも色分けがなければ、ほんとうにただ顕微鏡で観察するメロンの表皮と大差ないように思う。あるいは電子基盤のような。駅の絶妙な配置も含めて、首都近郊の路線図は他に類を見ないくらいに完成されていると個人的には感じる。だけども、また世界は広い。韓国のグラフィックデザインスタジオが手掛けた東京の路線図を見ると、また独自のセンスでアレンジメントされている。以下サイトのURL。

https://www.zeroperzero.com/city-railway-system

このサイトでは各国の主要路線図を各地のシンボルなどと合わせていわば融合したデザインを示してくれる。話は少し脱線したけれど、ひとつには自分は路線図の美しさに心を惹かれているということ。

この路線図については結局のところ、インターネットが普及していないころからの産物であり、内実現代において果たしてハチャメチャに有用なものがあるかと言うと、たぶんもうそうではない。

なんなら東京周辺がこんなにも鉄道で溢れかえっているんだ、と教えてくれる皮肉に満ちた絵画なのかもしれない。今であれば誰だってスマホで現在地と行先だけ検索すればもっとも効率的なルートを瞬時に割り出してくれるのに、わざわざ路線図を見る必要はあまりないと感じる人も一定数いるかもしれない。

けれど人間もなかなか天邪鬼な部分がある。それはたとえば車のカーナビを信じないで己の感覚を頼りに目的地に行こうとするのと似ていて、路線図を見て自分の行きたいところに行きたいと考える人間だってちゃんといるということ。だったらやはり路線図はあって然るべきだし、今後の路線図の在り方というものには一歩先を進んだヴィジョンが必要になるはずだ。

たとえば現在の路線図の多くは空間が制約されていることに端緒をなすデフォルメ化されたものであり、その中では必要な情報が省かれている。

つまり路線図=地図ではない。そしてまた、路線図だけ好きになっても現実の世界とはつながりが見えにくい。要するに耳によく聞く各地の名所がどこにあるか、どの駅が最寄りなのか実は知らないで生きている。駅名によっては周辺のおしゃれなランドマークの名前を直截使用しているところもあるけれど、そこはそれ山手線において高輪ゲートウェイ駅ができたときに文句が噴出したように、どうも日本人、駅名にがっつりカタカナなんかが使われているとやや敬遠してしまうきらいがある気がする。高輪ゲートウェイ駅の名前の由来を調べると、まあ言い分もわかるけど、でもなあ、ってなる。ましてJR東日本が公募を出しておいて内部での意見を押し上げたという経緯も(果たして真相は不明だけど)釈然としない部分ではある。

兎にも角にも、ぼーっと路線図を眺めて目につく駅名を見たからと言って、そのあたりの地理・地形が描き出されるかと言えば、そんなことは全然ない。だから実際のところ路線図だけでは首都近辺を正確に理解するにはまだまだ材料が乏しいのが現状である。

個人的に、路線図にも周辺の地理の情報が欲しいなというのが率直なところ。たとえば駅構内に設置する路線図をタッチ可能な液晶ディスプレイなんかにして、駅名をタッチすると駅周辺の情報(乗り換え案内などを含む)が一目でわかるみたいな、そんな機能が付属するといいなと思う。まあそんなことはさして重要ではないけれど。

それで今はどうなったかと言えば、東京近郊のJRを中心とした鉄道路線を頭の中にインプットしている段階。たとえば京浜東北線ならどこからどこまでで◯◯線と共同運行で、◯◯駅から××線に乗り換える、みたいなのを片っ端から覚えようとしている。途方もないし、よく混乱するけれど複雑なのもまた良さだと思って勉強している。さすがに今はまだ各沿線を走る車輛とかについては守備が間に合っていないけれど、関連図書やサイトの情報からぼんやり理解はしてきた。そうやって各沿線にもそれぞれの魅力があることも分かってきたし、雑学なんかも付属的に知ることもできている。

改めてというわけでもないけれど、勉強してみると鉄道が滅茶苦茶面白いジャンルだと気づいて、もっと早くにハマるきっかけを見つけたかったというのが本音。当然今からでも全然遅くはないし、頑張っていこうという気概がある。兎も角、駅名を覚えていると、幾度となく東◯◯、西◯◯、新◯◯とか出現してきてウンザリもするけども、地道にやっていこう。ローマは一日にしてならず。

まだまだにわかもにわか、浅学非才の身に相違ございませんが、各駅停車の旅気分で悠々続けてまいりましょう。