それは「木材利用」というコンテンツ。

 

かつて大学時代、植物研究の世界に飛び込んだ自分はスギ・ヒノキの樹種の見分けという極めて初歩的なレベルから始まったと言っても過言ではない。今回はそういった話題。

日本の林業における代表格である両種。とくにスギは学名をCryptomeria

japonicaとあらわし、ラテン語では「隠れた財産(Cryptomeria)」という意味を持つように、成長が早く、およそ真っすぐ伸びる幹は木材として十分な利用価値を有する。

日本固有種であるスギは江戸時代に全国的に植えられた経緯があり、明治時代以降も伐採・植林という自然界のプロセスにしたがい、現在では日本の林業を根幹から支える重要なリソースとなった。人名や地名にも「杉」が多く見受けられることからも、古い時代からスギが日本人の生活に馴染んでいたことが窺える。

さらに時代は進む。太平洋戦争(1940年代)時には多くの木が資材や燃料として利用され、終戦後は復興や経済発展のために重要な役割を果たした。さらには環境面においても洪水や土砂流出などの防災の観点においてもスギの必要性は高まり、昨今においては海外需要によって国産材が高騰する『ウッドショック』という新たな局面を迎えることとなった。かくしてスギは各時代において多様的な役割を担ってきた経緯があり、いま現在は終戦後に植えられた人工林の主伐期という大きな転換期を迎えているところである。

ところが、現状の日本の林業というのは潤沢に成長したスギ林もとい人工林を積極的に切り出すだけのパワーがない。もう少し噛分けると、間伐をする業者が衰退したことと、切り出すための林内の路網が不足しているという観点において日本の人工林は間伐等を行われることなく放置されているので、じゃんじゃん伐採して搬出しようにも物理的に難しくなっている。

高度経済成長期、木材需要は大幅に高まった。その際注目されたのは国産材ではなく、安く仕入れができる外国産の輸入材だった。追い打ちをかけるように円高が進んだ結果、国内の森林を整備して、主伐のための間伐を行い、搬出をしても採算がとれず赤字になった。したがってますます日本は充分なリソースがあったにもかかわらず、その多くを輸入材に頼るといういびつな市場が出来上がった。

ただしそれはいっとき昔の話。2010年以降、国内の木材自給率は10年連続で増えており、令和2年(2020年)には41.8%となった(林野庁 森林・林業白書)。かくして日本の林業事情は息を吹き返し、上昇気流に乗ったかのように見える。が、実際には数字のトリックがそこには潜んでいる。この近年、国内は新型コロナウイルスの影響もあり、木材の総需要は漸減している。さらに木材自給率の中でも、燃料材需要が年々増加(前年比23.3%)している結果、相対的に木材自給率が高くなったに過ぎない。

新設住宅の需要は昨今の情勢もあり減り続けており、外国産の木材輸入に依存している状態は変わっておらず、自国の森林資源を積極的に活用していくという段階にはまだ一歩踏み込めていない。放りっぱなしの人工林は年月とともに朽ち、最終的には保全涵養という森林部門の側面においても多面的機能を発揮できないままその命を終える。

今の状況はとどのつまり、利用価値のある山地山林がゆっくり衰えていくさまを傍観している状態である。少なからずそういった森林は存在しており、たとえば民有林においても所有者が高齢になったことで手入れをしたくてもできない、伐採したくても管理が難しいという状況にある。総合的に見ても日本の林業界は依然厳しいままで、昨今の豪雨被害や山地災害の影響もあり、経済的に大きな飛躍が見込めていないのが現状である。

光明を見出すワードとして、非住宅建築物の木造化、付加価値の高い木材製品の輸出促進、脱炭素社会やSDGs、FIT制度、バイオマス発電がある。兎にも角にも、国産材を利用するところから日本の林業は進歩していく。その道筋をしっかり立てて段階的に政策を進めていくことが今後求められていく世界。それはもはや待ったなしの状況で、スギの成長よりも早く進めていかなくてはならないよ、って話。早口乙。