漫画・アニメ

 

春は窒息し、秋は蒸発した。ずうっと温度が高かったはずなのに、12月に入った途端の寒さと言ったらない。ところが日中は意外にも気温が高く、日差しが暑い。朝晩の冷え込みは例年並みかそれ以上で、何というかアレだ。一日の中に四季があるような、そんな感じがしませんか。そう思えば我々が過ごす何気ない一日もちょっぴりラグジュアリーな気もしますし、あはれですよね。

資格勉強に伴って、スマホからゲームの類は一切アンインストールしちゃって、暇な時間はYouTubeかXを見ることが増えた。結局自分の使う時間の配分が変化しただけで根本的な怠惰なところに変化はなかった。こと、YouTubeを見る時間が増えたのは年間を通じてライブ配信されることが決まったアニメ『ワンピース』のおかげだと言える。25年前の第一話から最新の1080とかそこらまで延々と放映するらしい。一年間も。

勉強のさなか、息抜きに、と見るのはたいへんな失敗で。つい何話、何十話と見続けてしまう魔力がそこにはあった。とりわけ初期のワンピースには無駄な構図や蛇足が少なく、ストーリーが完結かつ起承転結がわかりやすいので続けて見ることでストーリーの追懐を可能にする。だんだん話数を重ねるにつれ、冒頭にはいわゆるハイライトシーンが加えられるようになり、実際のところその話の進行部分のメインは後半に集約されるというのがあった。ともあれ、イーストブルー編、アラバスタ編、空島編、ウォーターセブン・エニエスロビー編あたりまでは結構サクサクと見れてしまうだけでなく、視聴者が盛り上がる名シーン・名セリフのオンパレードなこともあり、飽きない調子がずっとあった。勉強のおとも、作業用に流す動画としてはある意味でまったく意味をなさない。それくらいにはワンピースは面白い作品だということをアニメを通じて再確認できた。やっぱりワンピースは面白い。

アニメ・ワンピースにおいて後半部分で目を引くのは、作画・作風・クオリティの向上。これに尽きる。基本的な演出や声優、エフェクト、SEなどは全体を見ても大きく変化するわけでもない。それでももっとも話数を費やすワノ国編においてもアニメの勢いが落ちるどころか盛り上がっていたのはアニメ自体の質が担保されていたからだと思う。こと、戦闘シーンのこだわりは随所に見られ、技術の粋がちりばめられている。

最近見ていて感じたのは、ギア5を解放したルフィの動きがほんとうにゴムを体現しているようなところだった。昔のアニメなんかを見ていると、ルフィの攻撃や能力というのはどちらかと言えば「身体を自由に伸び縮みさせることができる超人系」だったのだけど、自由な力を手に入れたギア5の動きは現実のゴムの動きに非常に近しい印象を受けた。弾性・塑性・延性・硬化といった教科書で習う物理性がよく表現されている――子供が手混ぜで遊ぶようなゴムの動きを彷彿とさせた。それはまさしくアニメの力だと感じたし、ワノ国編はストーリーに負けず劣らず戦闘シーンの迫力においてこれまでのステージを何段階も向上させたスケールになっていたように思う。正直、ワノ国編については原作よりアニメの方がめっちゃ面白い。と個人的には思うのだけど。

でまあ、それよりも。それよりも?

灼熱カバディを今さらながら漫画を読んだ。率直な感想として今まで読んでこなかったのが勿体ないと思ったし、カバディというスポーツをもっと早く知りたかった。それぐらいには魅力のあるスポーツとして描かれている。

自分がスポーツ漫画が好きなのはストーリーやキャラクター以前にそのスポーツの面白さを漫画の中で楽しむことができる点。野球だったらホームランを打ったときとか、サッカーだったらシュートが決まったときとか、バスケだったらスリーポイントが入ったときとか。ある意味で漫画の面白さを伝えるという技術についてはスポーツは一番わかりやすい。だから好き。

例に漏れず、灼熱カバディという漫画も高校生がマイナースポーツであるカバディに取り組む物語で、スポーツである以上、点数を競って勝敗を決するわけだけれど、きわめて漫画というコンテンツに向いているジャンルだと感じた。というか、日本人の感覚に非常に刺さる魅力に溢れている。

攻撃(レイド)のときは自分より大きな相手に向かって自分だけが自分の武器を信じてトライするところとか、守備(アンティ)のときは攻撃手を守るために動いたり自分を犠牲にしたりするところとか、忍耐や意地の出しどころとか。ルールそのものも読んでいると自然に溶け込んでくるし、そのスポーツ特有のルールが大事なところでぶっささるシーンとかめっちゃ面白いな、って思う。というかスポーツ漫画全般に言えることだけど、主人公の影にいたり、通常目立たない選手がここぞというときに強敵を打ち負かしたり、出し抜いたりして一目置かれるシーン大好き。なんていうか、自分の弱さを受け入れたうえでそのときに出来る自身の最善を尽くすっていう、ある種のさだめが日本人にはとくにウケるよなあ、って改めて思った。スポーツに限らずではあるけれど。

あとはスポーツ漫画でいいのは努力が実を結ぶところ。このカタルシスは巻を追うごとに熟成されたウィスキーみたく味わう深くなっていく点において、スポーツ漫画の特徴と言える。それとか、だいたいのスポーツはトーナメント方式が多いから試合に勝ったあとに負けたライバルたちから技術や思いを引き継いで次に望めるところ。スポーツって勝つことそのものが王道だから王道が一番面白くなるのは必然で、漫画とか小説とか物語を考えるベースとしてこの上ないほど適任な素材ですよね。そう思いませんか。

そんな感じで、灼熱カバディを取り上げてあえて内容にはふれずスポーツ漫画はいいぞおじさんになったけれど、やっぱりスポーツ漫画はいいぞ。バトル漫画もいいぞ。