ここもきっと「腹の底」。

 

話すトピックがない。


というよりは、数ヶ月ぶりに訪れた気持ちの塞ぎ込みに溺れて思うように動かないというのが本音。


塞ぎ込んでしまうと無気力になる。

通常の生活すら前向きになれず、メロウな音楽を朝流すだけのような、そういう気分がずっと続いている。こびりついて、まとわりついて、粘液のからんだ幼虫みたいに。


夏だというのに。


雨が、長かったね。毎年のように各地に被害をもたらす豪雨がやってきたり、線状降水帯の発生なんかによって、自然災害はあちこちで頻発している。


夏だからなのか。


今年はコロナウイルスの影響を鑑みて、夏の風物詩の高校野球は中止になってしまった。蝉の鳴き声、日差しを反射する金管楽器、汗の滲んだタオル、応援団の歓声、人々の歓声、球児の歓声、一つの球場に大きな渦を巻く歓声、今年の夏はその歓声がない。

まして今月からスタートするはずだったスポーツの祭典も見送られ、ほんとうに夏は来たのかよく分からない。

夏はいろんな複雑なものが絡み合ってできていて、多少欠けていても季節を感じられるものであるけれど、今年の夏はふんわりしていて、モヤッとしていて、瀬戸内海の夏みたいなカラリとした風情が自分はお好みだけど、そういうらしさは一切見当たらない。


雨が長くて、なかなか気持ちが追いつかない。

ストレスだ。ストレス。


最近、嫌な汗をかくことが多い。

脇のにおい、あんまり良いものではない。ストレスを感じている匂いだなと思う。

薬やサプリ、効いているのかよくわからない。


自分はだんだん毒に近づいていて。濃度が高まるほどに、ぐずぐずになってどこにも行けなくなって。弾き語りもできなくなって。毒が結晶化してしまっても、そういうのは誰からも煙たがられる蜘蛛の巣の張った廃墟の壁の錆みたいにさ、どうにもなりやしなくって。


蓄積。


毒の蓄積。苦しみの蓄積。怒りの蓄積。

クジラの死骸が発する腐臭をともなって、暗い溝の底をゆくドブネズミ。


おまえは、そういう人間だ。

なってしまった。


電車、車、バス、飛行機、自転車。

歩かないと前に進めないのに、その足はどこを向いているのかてんで分からない。

スマホの液晶に映っているものや、おまえの目に映るもの、もれなくまやかしに見えてしまうだなんて、インチキも見破れなくなってしまうなんて、悪い目をするとか。世界をすべて恨んだような目をするとか。


綺麗な鉱物を見たほうがいい。地層に埋もれて過ごした時空間の狭間で圧力を受け、真の姿、滅びの姿になった鉱物に、なにを感じるか。


夜じゃなくて。

夜なんかじゃなくて。


他人に期待する時代は、とうの昔に巡り過ぎ去って、風の丘に吹き荒ぶ音、汚れた左手、しっとりなんかしてやしなくて、どす黒く、ただどす黒い。


いろいろな感情が、黒ずんでいくよ。

聞こえるか。

強烈な睡魔が襲ってきたときみたいに抗いようもなく、まなうらの影が淵のない冥々とした闇底に一直線に伸びている。


誰もいない処へ。

誰もいない。

誰もいない。


道連れ。わたしの道連れ。

情けをかけてくれる誰か。

そう、あなた。

輝きに向かい続けるあなた。


月光。

月見草。

月下美人

月と六ペンス。


ほんとうは自分ではないと信じていたけれど、それが自分ではないと言い聞かせていたけれど、嘘だった。

おまえだった。おまえだったよ。

残念だ。

しばらく間延びしてしまうのかもしれない、どれくらいその状態が続くのか、正直よくわからんのよ。

なるべく短く、短く済んでほしいよ。

心からそう思う。


いまは光が遠くとも。

たとえ普通が手の届かないところにあったとしても。


行く先に姿見を置いて、きみは何を想うのだろう。